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ボツワナの発展を支えるダイヤモンド

ボツワナの発展を支えるダイヤモンド

更新:2013年03月22日

ボツワナと南アフリカの国境にて ボツワナと南アフリカの国境にて

ダイヤモンドによって発展するボツワナ

陸路での入国時、ボツワナと南アフリカの国境にて。
ダイヤモンドの研磨業者の中でも、鉱山から直接ダイヤモンド原石を買い付ける権利を持った会社を宝飾業界内ではサイトホルダーと呼びます。ダイヤモンドサイトとは?いきなりの専門用語ですが、今回の内容では避けて通れませんので悪しからず。サイトとはイギリス(ロンドン)、南アフリカ(キンバリー)ボツワナ(ハボローネ)、ナミビア(ウイントフック)、カナダ(オンタリオ)のダイヤモンド原石の鉱山を有する5拠点で開催されるDTC主催のダイヤモンドシンジケートの事です。2013年度中には世界5か所のサイトはボツワナのハボローネに本部が集約されていくそうす。

現在、世界中のダイヤモンド研磨技術を持つ企業は、ボツワナのDTC(ダイヤモンドトレーディングカンパニー)の周辺に研磨工場を建設中です。ボツワナ政府もダイヤモンドビジネスに積極的に関わっており、DTC本部施設のボツワナ移転はボツワナ政府からDTCへの要請で実現しました。

こういった一連の動きは外貨獲得、世界的な鉱山・採掘企業や、ダイヤモンドの研磨業者の誘致、それによる雇用の創出など、国としてのメリットが大きく、大きなビジネスチャンスと言った所です。実際にボツワナではダイヤモンドビジネスが国全体の歳入中50%を占める主要産業なのです。ダイヤモンドで得た収益は病院や学校、道路や水道などのライラインはもちろんの事、様々なインフラ整備に約立てられています。

DTC公式HP
http://www.debeersgroup.com/operations/sales/diamond-trading-company/

※ダイヤモンドが産出する鉱山はアフリカ大陸の他にロシアやカナダ、オーストラリアなどが有り、それぞれの鉱山会社が運営するダイヤモンドサイトが独立して稼働していますので、ダイヤモンドの世界では今後DTCを含めた鉱山系の企業同士の戦いになっていくようです。

Debswana周辺のダイヤモンド研磨工場

2007年にスタートしたデブスワナ(DTCボツワナ)、ボツワナでのダイヤモンド原石ビジネスの開始当初は16社のサイトホルダーでスタートを切りましたが2013年現在21社のサイトホルダーが軒を連ねるダイヤモンドタウンになっています。1つのサイトホルダーの研磨工場に約3,500人のボツワナ人が従事していて、ボツワナの全人口200万人に対して7万人程度がダイヤモンドビジネスにかかわっていると言う事になります、国家を上げて取り組んでいるわけですね。

Debswana周辺のダイヤモンド研磨工場 Debswana周辺のダイヤモンド研磨工場

上質なダイヤモンド原石はカットプランを練って仕上げます。

サイトホルダーの手に渡ったダイヤモンド原石は先ず、プランニングデパートと呼ばれる、デザイン室で最終的にどのような形に研磨するのかを?協議・審議します、DTCでの簡易検査の段階ですでに価格が決定されているダイヤモンド原石は、歩留まり良く研磨することが必須条件、もし研磨に失敗してダイヤモンドが小さくなりすぎれば、原石の仕入れ値に対して販売価格は下がって赤字になってしまいます。

レーザー照射ダイヤモンド原石 レーザー照射ダイヤモンド原石

レーザー照射で3D画像に書き出されたダイヤモンド原石は数パターンの最終形の中から最も美しく輝くプロポーションを選び出し最適な形に研磨されます。

プランニングデパートではダイヤモンド原石を詳しく観察してカラーやカット等、3Cに配慮して最終形を決定します、 最新の研磨機ではレーザーをダイヤモンド原石に照射して全体の立体的なレントゲン写真のような図面を作り出します。CG上で最適な形を導き出しますから最適なサイズで取り出すべく設計されます、この技術がなかった頃は、ダイヤモンド原石の一部分を磨いて、石の内部を覗き込む「窓」を作って、その窓から内部を覗き込んでダイヤモンドの内包物(インクリューション)を検査していました、内包物(インクリュージョン)の位置によっては、思うような最終形に研磨できない可能性も出てくるので、この作業はとても重要で、熟練した職人による観察眼と技術が必要でした、しかし現在はCG画面の立体図で何処にどの様な内包物(インクリュージョン)が有るのか?までが正確に把握する事が出来ますので、以前に比べて原石のロスが少なく効率よく研磨できるようになっています。この段階で原石のどの場所にどんな成分のどんな形の内包物が有るのか?までが看破できてしまいます。

ラウンドブリリアントカットにダイヤモンドを研磨する場合、この機械の中にトリプルエクセレント・ハートアンドキューピットのダイヤモンド・プロポーションのデータが既に入っていますので、ダイヤモンド原石のどの部分を、どの位研磨すれば良いのか?まで、全てがここで明らかになるという事です。

どんなプランニングデパートでの協議の結果、ラウンドブリリアントカットに研磨する事が決定されたダイヤモンド原石は、まずソーイングというテーブル・ファセットを削り出す作業に入ります。
テーブルを切り出すと、この後このテーブルをしっかり固定して、その他の57の面(ファセット)を研磨していきます。

ガードリングしてダイヤモンドの加工開始

ガードル(外周)を決めて正円を作る作業ガードル(外周)を決めて正円を作る作業

テーブルの次はガードル(外周)を決めて正円を作る作業に入ります、ガードル(外周)を決定できると自動的に原石の中心(センター)が算出できるようになります、ダイヤモンドはどんな形に研磨するにしても、形の美しさの基本となる「対称性」はとても要素だからです。

このガードルとセンターが決定できないとカットの対象性が失われて、肝心のダイヤモンド特有の虹色の輝きが均一に効率よく引き出せないのです。ここまでをプランニングデパートで決定したら、いよいよ研磨の作業に入っていきます。

テーブルとガードル(外周)が決まると、同時にセンター(中心)が決まります。ほとんどの場合この時にキューレットの位置も決まり、ダイヤモンドの研磨済みの最終形が大まかに見えてきます。
ここまでは最新のプログラムでダイヤモンド原石にとって最適な形になるように計算された通りのカットが施されます。この項目までは基本的には機械でオートマチックに進んでいきます。・・・びっくりですね!

職人の手によるラウンドブリリアントカット(正面から見て丸型)の研磨の第一段階は、ダイヤモンドのパビリオン部分から開始されます。テーブル部分を仮決めして固定したダイヤモンドは、パビリオン部分の中でもアンダーガードル・ファセットから仕上げていきます、研磨工は面数が増えるごとに熟練した職人に変わっていくシステムのようで、同一セクション内では自分の担当ファセットがない研磨師は何やら手持無沙汰のようでした。

ダイヤモンドの基礎研磨は専門職人が担当

ダイヤモンドの研磨を体験 ダイヤモンドの研磨

ダイヤモンドの研磨を体験!以前ベルギーのアントワープでも研磨を経験しているので人生で2回目の貴重な体験でした、何度も言えない「ヌメッ」とした感触、世界一の硬さを誇る物質を世界一の硬さのもので磨くわけですから何とも例えようのない不思議な感触です。

ダイヤモンドの研磨は一面一面担当者がいて、一つの面ごとにセクションを決めて研磨していきます。ダイヤモンドの神秘的な輝きは何人もの研磨師手を経て大切に大切に研磨されて完成するのです。
※ちなみに研磨を分業にすることで原石マーケットへの個人の介入を防いだりする効果があるんだとか。こうしたダイヤモンド研磨の全工程を一人で出来てしまう人を『ダイヤモンド・マスターカッター』と呼びます。研磨工場ではマスターカッターの役割をプランニングデパートが担当していると言う訳です。

ダイヤモンドの神秘的な輝き パビリオンファセットの研磨にも様々なチェック項目

パビリオンファセットの研磨にも様々なチェック項目があり特に面と面が接地している場所は細心の注意を払って研磨されています。正確な正円と対称性を保つためには一つ一つの面を丁寧に磨きこまなければならないため、相当の集中力を要求されます。

ダイヤモンドはダイヤモンドで磨かれる

地球上で最も固い物質であるダイヤモンド 宝石研磨専用の電子ロクロ

地球上で最も固い物質であるダイヤモンドを研磨する事が出来るのも、またダイヤモンドだけ、(左)スカイフと呼ばれる宝石研磨専用の電子ロクロは、高速回転する鋼の金属板に研磨用ダイヤモンドのパウダー(研磨剤)とオイル状フラックス剤を塗り、そこにダイヤモンドを押し当てて少しずつ研磨する専用の機器です。
ダイヤモンドパウダーとダイヤモンドの結晶の方向、硬さの異方性を利用してダイヤモンドを研磨していきます。ダイヤモンドを押し当てて研磨しますが、研磨時の摩擦熱も超高温になります、キャリアの浅い研磨師はダイヤモンドの研磨面とは反対の方向にバーンマークと呼ばれる「焦げ」を作ってしまうこともあるそうです。

ダイヤモンドの輝きは原石 ダイヤモンドの研磨面

ラウンドブリリアントカットは全部で58面、テーブル以外はパビリオン部分から研磨していきます。パビリオンファセットがすべて仕上がったらアッパーガードル・ファセットの研磨、ベゼルファセットの研磨そして最後にスターファセットを研磨して仕上がります。

ダイヤモンドの輝きは原石で決まる!

ダイヤモンド原石は大きく分けて3つのスタイルがあります。ダイヤモンドの結晶は等軸状の八面体型で、その結晶系が美しくそのままに採掘された物は「ソーヤブル」と呼ばれます。このソーヤブルは『のこぎり』の英語Saw(ソウ)が 出来るAble(エーブル)の意味で、正八面体結晶そのモノの形で横から見るとピラミッドを底で合わせたような形をしています。

このソーヤブル原石が産出する確率はかなり低く宝飾用ダイヤモンド原石全体の15%程度と言われています。世界最高のダイヤモンド鉱山ジュワネングは無論ですがロシア、ナミビア、カナダなどの高品質と言われる産地からも産出しています。通常ソーヤブル原石からは大小2つのダイヤモンドが切出されます。

ダイヤモンドの輝きは原石で決まる

ダイヤモンド原石ソーヤブル(Saw able)

上の写真はボツワナ産ダイヤモンド、ソーヤブル(Saw able)原石の写真、このソーヤブル(Saw able)正八面体結晶の原石が生成段階で何らかの圧力や不純物の混入などによって一部結晶の形が少し歪んでしまって正八面体結晶とは言えないダイヤモンド、下左写真の様なやや崩れた結晶を「メイカブル(Make able)」と呼びます。メイカブル(Make able)からは通常一つのダイヤモンドが切出されます。

そして歪みが大きく、不純物も沢山混入してしまっているものの、宝飾用として何とか使えるかもしれないというような原石を「ニアジェム(Near Gem)」と呼びます。ニアジェム(Near Gem)原石からは高品質のダイヤモンドは出てくる可能石が低く文字通り宝石に(Gem)近い(Near)という事です。ダイヤモンド研磨の現場では、このどのタイプのダイヤモンドも取り扱いますが、原石段階で価格の高いソーヤブル(Sew Able)原石から削り出された、ダイヤモンドが最も高品質で高値で取引されます。

ニアジェム ニアジェム

ニアジェム ダイヤモンド ダイヤモンドの研磨

最近の機器を使ってダイヤモンドの研磨は飛躍的に生産能力が上がっているとは言っても、平均的に0.3カラットのラウンドブリリアントカットのダイヤモンドを研磨するには原石で約1ctが必要!0.7ctは研磨で失われてしまいます!3つの原石の中でソーヤブル(Sew Able)の原石が研磨時の目減りが一番少なく、効率よくカット研磨出来ます、しかも結晶格子の乱れもないので最も高品質なダイヤモンドはこのソーヤブル原石(Sew Able)から取れると言う事です。逆に「ニアジェム(Near Gem)」原石から高品質なダイヤモンドが取れることは、ほとんどないという事でもあります。

ダイヤモンドを研磨できるように 研磨工場は流作業

カットの工程では途中何度も肉眼で確認しながら進めています。研磨工場は流れ作業でダイヤモンドを研磨できるように一つ一つの研磨麺ファセットごとにセクションが仕切られています。必要によっては、この後カット工場を運営するサイトホルダーの本国で仕上げの研磨を施す場合もあります。ダイヤモンドは原産地、研磨地、集散地など呼ばれるマーケットが複数あり、その流通も世界中に及んでいます。

例として、原産国&基礎研磨をボツワナで施した後、仕上げの研磨の為にベルギー等のダイヤモンドカットの先進国で仕上げる、その後そのダイヤモンドをイスラエルやインド等のダイヤモンドマーケットで売りに出しています。今回のボツワナ視察では、こうしたダイヤモンドの集散地の有り方が変化していく図式がどんどん明確になってきているという事を確認しました。

変化するダイヤモンドの流通

アフリカのダイヤモンド研磨の最終的なクオリティーはまだまだベルギーやイスラエルなどのダイヤモンド先進国に敵わないと言われています、実際にラウンドカットにおいては研磨済みの状態で0.5ct以下のサイズではトリプルエクセレント・ハート&キューピットを仕上げる事が出来ないと言われています。
国民性や基本的な手先の器用さの他に、仕事に対する考え方などクリアしないといけない様々な問題があることは確かですが、近い将来、ダイヤモンド原石の採掘から研磨、最終仕上げまでをボツワナ国内で出来る日が来るかもしれません、そうなれば、ダイヤモンドが産出していないイギリスやベルギー・イスラエルなどのダイヤモンド集散地がダイヤモンドの源流マーケットとしてはもしかしたら存在する意味が無くなるかもしれません。
インドやタイのバンコクのようなダイヤモンド以外の宝石にとっても重要な集散地は別としても、各宝石ごとにスペシャリティーの高い場所がより明確になっていきそうです。

(文・写真 BROOCH 小林朋也)