第一話:30日後に迎えるハッピープロポーズ
たいしは、新潟市役所の仕事を終えた後、足早にジュエリーショップBROOCHへ向かっていた。30日後に迎える特別な日——プロポーズの日に向けて、完璧な指輪を手に入れるためだ。
「やっぱり、ここが一番いいかな……」
BROOCHの入り口で一度立ち止まり、深呼吸をしてからドアを開ける。店内にはきらめく宝石が並び、上品な香りが漂っていた。落ち着いた照明がジュエリーの輝きを引き立て、高級感のある木目調のインテリアが洗練された雰囲気を醸し出している。
BROOCHは、新潟市で長年愛され続けているジュエリーショップで、ブライダルリングの品揃えが豊富なことで知られている。全国的にも有名なブランドを多数取り扱い、オーダーメイドの相談にも乗ってくれる。たいしは何軒か他のショップも回ってみたが、BROOCHのスタッフの知識の豊富さや丁寧な接客に惹かれ、ここで購入することを決めたのだった。
「いらっしゃいませ!」
明るい声に顔を上げた瞬間、たいしの心臓が凍りついた。目の前には見覚えのある顔——みさきの親友、まみが立っていた。
(やばい! まみに見つかったら、みさきにバレるかもしれない!)
たいしは心の中で焦るが、まみはプロの笑顔で接客モードに入っている。
「本日はどのようなご相談でしょうか?」
まみの声が響く。たいしは必死で冷静を装うが、顔が引きつる。
「え、えっと……その……友達の付き添いで……」
(ダメだ、こんな言い訳じゃ怪しまれる!)
「お友達の付き添いですか?」まみが首を傾げる。「でも、お一人ですよね?」
「そ、それは……」
たいしが言葉に詰まると、まみがニヤリと笑う。
「もしかして、サプライズのご相談ですか?」
たいしは一瞬ギクリとしたが、これはチャンスだと思い直す。
「そ、そう! そうなんです!」
「なるほど、サプライズね!」まみは納得したように頷いた。「なら、おすすめのデザインをいくつかご紹介しますね。」
まみはガラスケースを指しながら、さまざまなデザインの婚約指輪を説明し始めた。クラシックなソリティア、ダイヤモンドが繊細に輝くハーフエタニティ、そして花のモチーフがあしらわれたロマンチックなデザイン——どれも美しく、たいしの目を奪った。
(どれも素敵だけど……みさきに一番似合うのはどれだろう?)
たいしは、彼女の指に映える指輪を想像しながら、慎重に選び始めるのだった——。
(つづく)
comment