第三話:婚約指輪に込める想い
「うーん、やっぱり迷うな……。」
たいしはガラスケースの前で腕を組み、いくつかの指輪を見比べながらため息をついた。どれも美しく、どれも魅力的だ。しかし、一生に一度の贈り物——みさきにとって特別な指輪を選ぶとなると、簡単には決められなかった。
まみは柔らかく微笑みながら言った。
「たいし、婚約指輪って、ただのアクセサリーじゃないのは分かるよね? それに、彼が選んでくれた指輪をつけたいって思う女性は多いんだよ。」
「俺が選ぶことに意味がある……?」
たいしはまみの言葉を噛みしめた。
「そう。婚約指輪には『あなたを一生大切にします』っていう誓いが込められてるの。たいしが心を込めて選んだからこそ、みさきも特別に感じるんじゃないかな。」
たいしはふと、みさきの笑顔を思い浮かべた。彼女は驚くかな? 喜んでくれるだろうか?
「みさきの好みも気になるとは思うけど、いちばん大事なのは、たいしが『これだ』って思う指輪を選ぶことだよ。みさきにとって、その指輪はたいしの想いそのものになるんだから。」
たいしの心に、少しずつ決意が芽生えてきた。
「なるほど……。指輪を見たときに、俺の気持ちを感じてもらえるってことだね。」
「そうそう。それが婚約指輪の本当の価値だと思うよ。」
まみの言葉は、たいしの迷いを吹き払ってくれた。
「ありがとう、まみ。なんだか、選ぶべき指輪が見えてきた気がするよ。」
たいしは改めてガラスケースを覗き込み、ひとつの指輪に目を留めた。それは、シンプルながらも品のあるデザイン。中央のダイヤモンドが輝き、どんなシーンにも馴染む洗練されたリングだった。
(これだ……。)
心が決まると、不思議と迷いは消えていた。みさきの喜ぶ顔を想像しながら、たいしは静かに頷いた。
「この指輪にするよ。」
まみは嬉しそうに微笑んだ。
「うん、素敵な選択だと思う! みさきもきっと喜んでくれるよ。」
こうして、たいしの婚約指輪のデザインが決まった。しかし、これは新たな始まりでもある——30日後、プロポーズの日。たいしの想いを込めた指輪が、みさきの指に輝く瞬間が、もうすぐ訪れる。
comment